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【北信越ラボコラム】〈08〉上越における「通年観光」を考えてみた(その5)

上越における「通年観光」を考えてみた(その5)
取締役 観光事業担当 野添 幸太(のぞえ こうた)

 これまでは通年観光という言葉が出てきた背景を考えつつ、通年観光に対応するには時代の変化に対応する必要があり、そこにアジャストしないと上越地域が苦手としている女性グループには届かないこと。そして彼女たちはスマホを駆使して、今やGoogleよりもインスタグラムを使って情報を探しながら「次」を探している。そして、前回は検索エンジンにもアジャストすべきことが見えているという話。
検索キーワードと観光客の行動がうまくつながっていないところから、観桜会ヘビーリピーターやうみがたりに来ているファミリーにも新しい提案の仕方が必要であるということが見えてきました。

過去リンクは以下
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第1回ではなぜ通年観光という言葉が使われるようになってきたかの背景

第2回では昭和の時代にできた観光のしくみを「今」にアジャストする必要性

第3回では「すべてはスマホの中に」というタイトルで旅の決め方とか、選び方が大きく変わっていること
第4回では前回は検索エンジンにもアジャストすべきことが見えているという話
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さて・・・・第5回目は、通年観光実現のキモは「過ごし方提案にあり」というタイトルで、他の地域での取り組みなどを参考にして、「今」の観光客はどうすればまた上越に来てくれるのか?についてヒントを探ってみたいと思います。

これまで書いてきた中でわかってきたことは、上越に来てくれる観光客は県内客が一番多く、次に近隣の県というように同心円的に広がっています。そして、毎年の観桜会には来てくれるものの花見だけを楽しみ、最近増えたうみがたりに来るファミリーや若年層は従来の見学型の観光スポットには足が向かっていないということがわかってきました。

「団体型」「通過型」の昭和型観光

歴史的観光資源にリピーターは集まるのか?
高田城址公園や春日山城跡にまつわる歴史的事実は変わりませんから、「何度も行きたくなる理由」がなかなか提案しにくい。かつて昭和の時代にできた日本人の観光旅行というのは、旅行会社がバスや列車を利用して団体でドカンとお客様を送りこんで、観光もソコソコに夜の宴会で盛り上がればよいというパターンでしたから、観光スポットもひとりひとりの趣味嗜好、興味の度合いに合わせる必要なく、全員が30分程度見学したり、散策したあと「トイレを済ませてバスに乗り込んで次へ」みたいなことで十分目的を果たしているという感じの作りが多かったわけです。
それでも昭和から平成の入り口までは日本人も今ほど旅行頻度が高くありませんでしたから「どこでも初めて」、基本的に目的地は「行ったことがないところ」に向かっていました。だから、もう一度同じところに行くよりもまだ行ってないところに行くことを優先していたのです。結果、観光地としては次々と新しい観光客を受け入れるだけでよかったのです。結果「リピーターのニーズ」を考えなくても何とかなってきたというわけです。

「いつもとちがうこと」「みんなとちがうこと」を発信する「義務」とは?

かつては、旅行から帰ってきた時のおみやげ話としては、
「○○へ行ってきた」 「へぇ~」
「○○がおいしかった」 「へぇ~、いいなぁ」
「はい、これがおみやげ」 「うわぁ、ありがとう」
みたいな会話が成り立っていたのですが、

リピーターが増えてしまうと
「○○へ行ってきた」 ⇒ 「私も行ったことある~」
「○○がおいしかった」 ⇒ 「おいしかったでしょ~」
「はい、これがおみやげ」 ⇒ 「あっ、これおいしいんだよねぇ~」
となってしまいます。

これではおみやげ話として盛り上がりませんし、おみやげを買って帰るモチベーションも上がりません。

さらに、最近ではこの会話がSNS上でリアルタイムに展開されます。
「今、○○にいるの」⇒映え写真⇒「わぁ、すごいきれい」いいね!
「このスイーツすごいでしょ、見て!」⇒映え写真⇒「わぁ、すごい。おいしそう」いいね!

リアルタイムで現地から「今の楽しさ」を共有できる時代です。
☆☆☆そこでは「景色」とか「説明」ではなく、「いつもとちがうこと」「みんなとちがうこと」を発信する「義務」(笑)があるのです。☆☆☆

ではその状態をどうやって脱出するのか??

善光寺から学ぶこと 路地裏がかわると観光も変わる

ここで最近の事例からのヒントを一つ。
上越市からたったの約50kmで行ける超有名観光地のひとつといえば長野の善光寺さんですね。

今年は7年に一度の御開帳でしたから、大いににぎわったと聞いています。
それ以外の通常時の善光寺さんはほとんどの参拝者がリピーターです。バスツアー等のお客さんも大半がリピーターではないでしょうか?
いつもの参拝者からするとお賽銭とお蕎麦屋さん以外、あまりお金を使わない場所ですよね。観光バスツアーの場合でも、善行寺北側の団体駐車場から「1時間後に集合お願いします」といわれて、参拝して仲見世をうろうろしてバスに戻るという感じですから、お金を落とすところは決まっている昭和の観光地のイメージが強かったのです。ところが。。。

調べてみますと、はじめは2003年に「ナノグラフィカ」が編集室、ギャラリー、喫茶室として空き家を改装してオープン。空き物件を紹介する空き家見学会に「マイルーム」が加わることにより加速、リノベオフィスができはじめ、そこで働く人が立ち寄る飲食店や雑貨店などができ、その人たちの住居もできて、お店が増えると観光客が増えて今度は宿ができて…と、この10年でまちが次第に変化し今ではなんと周辺で100棟を超えるリノベが行われたとのこと。
あっという間の変化なのですが、この動きは観光客を集めるためにスタートしたものではなく、もともとは地域に暮らすことを基本とした活動「長野・門前暮らしのすすめ」がベースにあるので「日常感」を求めて人が集まってきた結果、観光客もそこに集まってきたという流れのようです。善光寺という「非日常」の横にある「日常」に観光客が集まり始めたということでしょう。
日常を売っているわけですから、あえて「信州名物」でも「長野名産」を押しつける必要なく、普通にカフェ、スイーツ、イタリアンでもいいのです。いろいろな選択肢の中から自分に一番合っているお店で過ごす時間とか居場所が商品なわけです。

いつも住んでいる場所から離れて、善光寺周辺でカフェしたり、ランチしたり、それを友だちとシェアしたりすることが「主目的」。自分なりの過ごし方をしつつ、SNSの「義務」もこなし、その流れで善光寺参り。
そちらの方がリピートする可能性が高いでしょうし、地域に落とすお金が大きくなりますから、善光寺門前までしか経済効果がなかったところから善光寺周辺に行動範囲が広がるだけでも受益者が増えていることがわかりますね。

でも、注目を集めているこのエリアですが、観光協会のホームページにはまだ掲載されていません。
ということでまだしばらくは「日常感」を楽しめますね。

上越の日常は観光客にとっては「非日常」

善光寺さんのお話はリノベの移住者をキッカケに、人が集まり、町が活気づき、観光客まで集まり、思い思いの時間を過ごせる場所・空間として再認識されたという超サクセスストーリー。

すごいと思いませんか?
たった10年でリノベ物件100軒以上。
移住者も増えるし、資本も集まる。
そして、善行寺さんよりも注目を集める。
このことはそうそう簡単にマネできることではありません。

ただ、そこだけを見てしまうと「うらやましい」「同じことは簡単にはできない」とついつい思ってしまいますが、これって潜在的には全国どこの町でも持っているものばかりなのです。
空き家
オフィス
カフェ
レストラン
雑貨店
セレクトショップ 等
かつてどんな町にも日常的にあったもの、商店街にあったもの、町の中にあったものばかりなのです。

違うのは「非日常のデザイン」

上越に住んでいる人が上越でいつもの人といつものお店で過ごすことは「日常」。
でも外から来た人からすればそこは「非日常」。
上越の日常は観光客にとっては「非日常」とはいいますが、ただ昔のままだったり、そのままだったりでは日常の人と日常の人の距離感が近すぎて、非日常の人が入り込む余地がないのです。ちょっとした「窮屈感」を感じさせてしまっているのかもしれません。

いわゆる最近の「こじゃれたお店」って、あまりモノが置いていない、カベも床もシンプルなデザイン、適度なグリーン、机と机の距離も広い、窮屈感を感じさせない心落ち着く「非日常的」デザインになっています。古民家や町家のリノベーション物件の多くはそんなデザインですよね。そして、お店のスタッフとの距離感も近からず、遠からず、話しかければしっかりと受け答えしてくれる。いい空間ができています。

地域で日常的に営業しているカフェもレストランも雑貨店もオフィスも、「日常の窮屈感」から解放させられるデザインをとりこめば、地域外の人たちの「非日常」の場として、リピーターが落ち着ける場所だったり、「いつもとちがうこと」「みんなとちがうこと」を発信できる場所だったり、になれる可能性を感じますね。新しい地域での過ごし方提案はデザインから、ですね。

今回はこれまで何度も来てくれている上越へのリピーターが、また来たくなる、もっと来たくなるためのヒントについて書かせていただきました。善光寺さんの例を見れば、どこにでもある地域の日常をリノベしたり、デザインしなおすことで、「非日常感」を味わい、そしてそこで過ごす時間を楽しむ新しい場ができるという学びを得ました。
これまで地域を支えてきた歴史的観光資源や町並景観そのものの観光価値はかわらずそのまま。大きく変わるものではありません。これから先に向けては、その場、その空間の価値を利用して、新しいデザインで新しい過ごし方を提案できれば、そこに新たな可能性を見いだせるのではないかとあらためて感じました。

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